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081 私たち、これからも

last update Huling Na-update: 2025-08-03 17:00:51

「あのその……ただいま、です……」

 16時を回った頃に、菜乃花が戻ってきた。

 この時間、入居者たちは入浴が終わり、部屋で休んでいることが多い。

 スタッフたちは夕食の用意をしていて、そういう意味では、あおい荘が一番静かな時間帯でもあった。

「あ……」

 廊下を歩くつぐみが、菜乃花の姿に足を止めた。

「お、おかえりなさい、菜乃花」

「あ、はい……ただいま戻りました、つぐみさん……」

 そう言って、二人共視線を逸らす。

「じゃ、じゃあ私、夕食の準備に」

「つぐみさん」

 立ち去ろうとしたつぐみに向かい、菜乃花が声を掛けた。

「その……ちょっとだけお時間、もらえませんか」

「あ、その……私ほら、夕食の準備が」

「行ってこいよ」

 直希が現れ、つぐみにそう言った。

「直希……」

「菜乃花ちゃん、おかえり。学校、どうだった?」

「あ、はい……かなり微妙な空気でした。先生も、私が実行委員を辞めたいって言ったら慌てちゃって。でもクラス会できちんと、みんなに謝って辞めることが出来ました」

「そっか」

「はい。それにみんな、私の髪を見てびっくりしちゃってて。今日は私に嫌がらせするの、忘れてたかもしれません」

「ははっ。でもあんまりなことがあったら、ちゃんと言ってね」

「はい、ありがとうございます」

「つぐみ、菜乃花ちゃんと行ってこいよ」

「でも私、夕食の」

「任せろって。もうほとんど出来てるんだし、大丈夫だよ」

「……」

「せっかくのお誘いなんだ」

「……分かったわ。

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